(免責事項)
本ページの内容には低温を発生する物があります。工作・使用は自己責任で行ってください。
液体窒素冷却広帯域プリアンプ
(概要)
液体窒素(77K)に浸すことにより、低ノイズになります。
雑音指数(Noise Figure:
NF)は0.4dBを切ります。
10MHz以下では世界最高(多分)。
通常HF-VHF帯では地球の熱雑音や銀河雑音等が大きいのでこれほどの性能は必要にはならないのですが、低温での核磁気共鳴(NMR)法ではピックアップコイルからの熱雑音が少ないため、
大きな意味を持ってきます。
市販のNMR用常温プリアンプは雑音指数にして1.0dB程度であるので、このプリアンプを使うと理想的な状況では3倍速く測定を行うことができます。
HEMT(High Electron Mobility Transistor, 高電子移動度トランジスタ)を8個!パラレルで使ってます。
Specifications
帯域 1.5-270MHz
雑音指数 0.3dB(10MHz-60MHz)
デッドタイム 2μs以下
リターンロス 約8dB
量産機
自作版の設計を元に、現在までに20機超生産。秋葉原の某業者で。
部品数が300個程度と多く基板も国内生産、セミリジッド同軸が6本なので、結構いいお値段です。
自作版(
設計図PDF)との違いは、
空芯コイルから表面実装インダクタにしたことと、高周波特性を150→270MHzにアップしたこと。
低周波特性と過渡特性を両立させてデッドタイムを抑えてあります。6層FR4基板で実装しました。
回路図R3(200MHz版)( pdf)、
回路図R4(270MHz版、R3からの改造法は取説付録)( pdf)、
パーツリスト( pdf)
作成法補足( pdf)
取説( pdf)
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先行試作機の雑音指数(Noise Figure: NF)。低温法で測定。
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先行試作機のゲイン
270MHz版(R4)のゲイン
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低温部写真(裏面)
白い丸がHEMT。
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常温部写真
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旧旧バージョン
常温部のバイアス回路のフィルタ時定数を変えることによって多少特性が変化します。高周波向けと低周波向けの2種類作りました。両面基板で実装したので、
HEMTの発振を抑えるのに多少難有り。
ドレイン電流は抵抗を使って流しているため、発熱が大きく液体窒素は1日あたり1Lぐらいの消費量になります。
低デッドタイム/低ノイズ版
Specifications
帯域 3-150MHz
雑音指数 0.3dB(10MHz-100MHz)
デッドタイム 2μs以下
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雑音指数(Noise Figure: NF)。低温法で測定。
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ゲイン
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リターンロス
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低周波版
Specifications
帯域 0.5-100MHz
雑音指数 0.5dB(10MHz-100MHz)
デッドタイム 5μs以下
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雑音指数(Noise Figure: NF)。低温法で測定。
入力に1:4インピーダンス変換トランスをつけたもの("w/ trans")とつけないもの("w/o trans")。
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常温部基板写真
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低温部基板表の写真
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低温部基板裏の写真
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回路解説
HEMTはヘテロ接合によりアンドープ層に2次元電
子ガスのチャネルを形成してます。MOS-FET等と違い冷やせば冷やすほど、ゲインが上昇し1/fノイズが減少する結果、他の素子では得ら
れない様な低ノイズ性能を得ることができます。しかし、本来マイクロ波帯用
である為、低周波での使用では
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1/fノイズが大きい
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入力インピーダンスをΓoptに合わせるのが難しい
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発振を抑えるのが難しい
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設計データが提供されていない
といった深刻な問題があります。この回路はインピーダンス変換を行わずにHEMTパラという特殊な構成になっていますが、それには理由があります。まず、
入力段の
損失はその分雑音指数が増加する
ことを意味するため、入力段の
ゲートまでのラインは超低損失でしないといけません。次に、極低温では固体部品の物理的性質の変化の為、使用可能な回路部品が非常に
限られます。
極低温で使用不可能な部品は、例えば、
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ほとんどの半導体。
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強磁性体(フェライト等)を利用した部品。つまりインダクタ。
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高誘電率のセラミックコンデンサ。
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海外製の部品。なぜなら熱応力で壊れやすい。
です。経験的に使用可能だと分かっている物は、
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HEMT, MOS-FET, ショットキバリアダイオードの一部。
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低誘電率セラミックコンデンサ、プラスチック系コンデンサ。
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薄膜抵抗。
等が上げられます。低周波(100MHz以下)ではインダクタ/トランスはフェライトコアを使わないと現実的ではないので、
実質的に極低温ではインピーダンス変換ができません。なのでこのプリアンプでは、HEMTを並列にして出力インピーダンスを合わせ、
NFを下げるという変則的な構成になってます。
入力インピーダンスはほとんど負帰還で決まってますが、NFに最適化する為に帰還はゆるくかけてます。
NMR用であるため、数100Wのパルスに耐えその後にすぐ回復しないといけないのですが、HEMTには通常のNMR用プリアンプよりきつい制約があります。
HEMTのようなショットキ接合型のゲート構造はVGS >=
+1V程度で破壊する為、保護ダイオードはショットキバリアダイオードでないといけません。高周波用の大電流
タイプが見つからないので、仕方なく20個ほど並列につないでます。回復時間(デッドタイム)については、これを細小にする為にOPアンプ+MOS-
FETによる定電流回路とLCフィルタを常温部においています。LCの定数はSpiceで過渡応答解析をして決めました。部品数は多くなりました
が、結果として無視できるレベルのデッドタイムになっていると思います。
低温法による雑音指数(NF)の測定について
雑音指数(Noise Figure)は、アンプ入力前後のS/Nの悪化度合い、(S/N)
in / (S/N)
out、で定義される。
通常は、入力雑音として290 Kの熱雑音(k
BT = -173.98 dBm/Hz)を基準とする。
2種類の既知のノイズソース、異なる温度の熱雑音を用いて出力ノイズ強度を測定すれば、アンプのNFを決定することができる。
Nout(T) = Gain x kBT + Namp
であるから、
Namp / Gain = (T2 x Nout(T1) -
T1 x Nout(T2)) / (Nout(T2) - Nout(T1))
となり、以下の式よりNFが求まる。
NF = (S/N)in / (S/N)out = (S / kB x 290 K) /
(Gain x S / (Gain x kB x 290 K + Namp) = 1 + Namp / (Gain x kB x 290 K)
dB表示では、10 log
10(1 + N
amp / (Gain x k
B x 290 K))である。
室温と液体窒素温度でのターミネータを利用し、雑音強度はスペクトラムアナライザーを用いて測定することで求めることが出来るが、レベルが小さいので工夫が必要である。
まず、入力はセミリジッド/セミフレキ同軸のみでフルシールドする必要がある。
スペクトラムアナライザーの設定は、ゼロスパン、アッテネーターOFF、RBWを0.1MHz程度以下、VBWを最小に、アベレージ機能、ノイズマーカーを使用する。また、スペクトラムアナライザー自身のノイズを別途測定し差し引くか、プリアンプを追加する必要がある。
参考文献